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スイッチングトランスを搭載した電源の構造と原理を解説

スイッチングトランスとは、商用交流を直流に整流する「スイッチング電源」に搭載されている変圧器(トランス)のことです。スイッチング電源は、従来から使われていたリニア電源に比べて、電源回路が複雑ではあるものの、発熱が少なく、小型化・軽量化・高効率化を実現しています。

ACアダプタを例に挙げると、古いタイプは大きくて重たいものであるのに対して、現在では小型かつ軽量なものが使用されています。これは、リニア電源からスイッチング電源のタイプが主流になってきたためです。

今回はどのような構造と原理から、リニア電源が大きくて重たいのか、スイッチング電源が小型化・軽量化・高効率化を実現しているのかについて解説します。

直流安定化電源について

リニア電源およびスイッチング電源についてお話する前に、直流安定化電源について解説します。

直流安定化電源とは、各家庭に配電されている交流の電源「商用電源(商用交流)」から、一定の直流・電圧に変換する、安定化回路(レギュレータ)を備えた装置のことです。直流安定化電源は、電子機器を動かすためのものだけでなく、電子機器の動作をチェックするためのものもあります。直流安定化電源は、出力方式の違いからリニア電源とスイッチング電源に大別されています。

家庭のコンセントでは100Vの交流電圧が供給されています。この電圧は、供給される途中での損失や、同じ電源に接続した機器の影響などから、微細な電圧変動が発生しています。この電圧をそのまま利用した場合、バッテリー充電などの難しい構造でない製品であれば問題なく使えることもありますが、低電圧で駆動する精密な電子機器の場合は、誤作動を起こしてしまいます。

また、家庭で使われている電子機器は、直流で動作するように設計されています。これらの内容から、安定して電子機器を動作させるには、電圧変動のない安定した直流を供給できる、直流安定化電源が必要になります。

リニア電源の構造と原理

次に一般的なリニア電源の構造と原理について簡単に見てみましょう。
リニア電源では、最初に商用交流をトランスに送り込むことで降圧させます。降圧後の電圧は、トランスの巻線比によって変動します。

次に降圧された交流は、順方向のみの電流を流すダイオードブリッジ整流器により、全波整流させます。商用交流からトランスで降圧するまでは、電圧波形が周波数を示していたものが、ダイオードブリッジ整流器を介したあとは、脈流の電圧波形へと変化します。次に電荷を蓄えるコンデンサを用いて、波形を平滑化させます。

リニア電源でのコンデンサは、ダイオードブリッジ整流器により、交流電流の向きが切り替わっても同じ向きの電流が流れて電荷を蓄えます。脈流の波形のままだと電圧変動が大きいので、コンデンサは蓄えた電荷を放出して、波形を平滑化します。

簡易的な回路のACアダプタであれば、コンデンサで波形を平滑化した状態で直流を出力しますが、ここでも若干の電圧変動(リップル)が残っています。そのため精密機器に電力を供給する場合は、誤作動が起きないように、より安定した直流が必要です。リニア電源では、波形を平滑化したあとに、レギュレータに搭載した半導体素子の抵抗を利用して、不安定な部分の電力を熱として無駄に排出させて、安定化直流を得ています。

リニア電源は、鉄心を含むトランスを搭載しているため、スイッチング電源に比べてサイズが大きくて重たい傾向にあります。しかし回路の構造が簡単で、ノイズの発生が少ないメリットがあることから、現在でも計測器・医療機器・オーディオ機器などに採用されています。

スイッチング電源の構造と原理

リニア電源は最初にトランスで交流電圧を降圧し、そのあとに直流へ整流する構造であることを解説しました。
一方でスイッチング電源は、交流電圧をダイオードブリッジ整流器で直流に整流してから、コンデンサで直流を平滑化させる構造です。ここでの電圧の波形は、交流の周波数から直流の脈流、平滑化と変化しています。続いて、平滑化した直流をスイッチング素子(トランジスタやMOS FET)でON/OFFを高速で切り替え、高周波パルスの交流にしてから高周波トランスに送り、降圧させます。ここでの電圧の波形は方形波に変化しています。

高周波トランスにより降圧を行ったあとは、整流ダイオードで整流したあと、再びコンデンサで平滑化して直流電圧として出力します。

スイッチング電源が、なぜこのように複雑な構造をしているのかと言うと、スイッチング電源の代表的な制御方式である、PWM(Pulse Width Modulation、パルス幅変調)が関係しています。PWM制御方式では、スイッチング素子のON/OFFの時間の比(デューティサイクル)により、出力する電圧を調整しています。電圧の変化に応じてパルス波の幅を調整し、各パルス波の面積が同じになるように変化させています。出力時は同じ面積のパルス波が組み合わさることで、安定化した直流が得られる仕組みです。

このようにスイッチング電源では、回路の構造が複雑ではあるものの、電力を切り貼りしたかのように無駄のない出力を行うため、電力の一部を熱として無駄に捨ててしまうリニア電源に比べて、高効率化を実現しています。

また、スイッチング電源のパルス波の周波数は、商用交流の50/60Hzに比べて、数10 kHz〜数100kHzと高周波であるため、トランスが小型かつ軽量なもので済むようになります。しかし、高速でスイッチングを行う分、ノイズが発生しやすい点に注意が必要です。パルスの周波数が高周波になると、トランスコアとしての鉄心は損失が大きくなってしまうため、スイッチングトランスでは、フェライトコアが使用されています。

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